”聞いてほしい事がある”

そう凍季也君が私に言ったのは、とても暑い―――7月の終わりの事。


「凍・・・季也君」


それ以来、彼とは一度も会っていない。

08.想い、焦がれる


「・・・ふぅ」


小さく息を吐き、私はシャーペンをノートの上に置いた。
一時間前から教科書は半分も進んでいなく、外からは刺すような日差しと煩雑なセミの鳴き声が絶え間なく聞こえていた。

私の集中力を乱すものは二つ。
一つはこの暑さ。
そしてもう一つは

―――あの時凍季也君から聞いた話。


「忍者・・・かぁ」


凍季也君から聞いた話は到底信じられるものではなかった。
しかし、その話を否定することはできない。
凍季也君が休んでいた事や学校や近くの遊園地で起きていた謎の事件。
それらは確かに会ったことなのだから。

それは、この間まで命がけで戦っていたという話だった。

殺されたお姉さんの敵を取るために


―――柳ちゃんを守る為に



「凍季也君は・・・柳ちゃんのこと・・・・・・」

どう思ってるんだろう・・・。



―――ツキン


「?」


僅かに痛む胸に、私は首をかしげる。
気のせい・・・だよね?


「凍・・・季也君」


話を聞いたあの日、私は何もできなかった。
儚く笑う凍季也君にどう声をかけていいのかが分からなかった。

なんとなく気まずくて、学校で話さなくなって、夏休みに入って、凍季也君と顔を合わせる機会も減って。



それなのに。

凍季也君の顔が頭から離れない。


(2011.11.06)